もえぎ君のヒーローズSSの冒頭

 人間が大人になる途中、特に中高生の時期、破滅に魅せられる人がいる。大抵の人は小心者で意気地なしだから未遂もせずに、インターネット上に「死にたい」なんて書くだけで終わる。自殺を実行するような奴は、意気地なしどもと比べればほんの一握りだ。

 大人になってしまえば、自分が死にたがっていたことも、どうして死にたかったのかという理由も全部忘れてしまう。そんな大人たちは自分の子供もまた破滅に惹かれているということに気づかない。気づいたところで彼らには何もできないのだけれど。

 こうして考えてみると、破滅に惹かれてしまうのは逃れられない流行病みたいなものなんじゃないかと思う。罹患すると本当に深刻な問題になるけれど、直ってしまうとそのときの辛さなんて忘れてしまう。罹らない人もいるわけで。破滅に魅せられてしまうのは病。

 そんな病にかかる中高生たちは自分を見つけるのに必死だ。どうせ死ぬのなら、新聞の端っこに載るくらいじゃ嫌だ。目立つ感じの死に方がいい。列車飛び込みは遺族に請求が行くから駄目。別に家族を憎んで死ぬわけじゃないし。そもそも迷惑だ。首つりもテントで練炭を焚くのもありきたりすぎる。飛び降りは遺体がグロくなっちゃうし。

 「最高のまま死にたい」と遺書を残して二人で飛び降りをした女子中学生がいたと聞いたことがある。テレビで話題にもなっていた気がする。こういう、メッセージ性の強い死に方がいい。未来に希望を見いだせなかった彼女たちは辛いことに直面する前に死ぬことにした。「大人になってもいいことはない」と彼女たちは思い、実行した。破滅は主張の場なのである。

 さて、私はどうしようか。

 誰もが思いつくような死に方はごめんだし、話題に登るようなやり方がいい。だけど、ワイドショーとか新聞とかで「少女の悩み」とかいってあることないことを全国に発信されるのも嫌だ。何か、私の主張を確実に世間に伝える死に方。

 娘がそんなことを考えているともつゆ知らない母とご飯を食べている時も、風呂で髪の毛を洗っているときも、消灯後のベッドの中でも考え続けた。だけど、考え続けている時というのはなかなか正解に辿り着かないものだ。私が現在の答えに辿り着いたのは考えるのをやめて、しばらく経ってから。学校で世界史の授業を受けていた時のことだ。

 なんかもう戦争辛いからパンよこせよ、とデモを始めたペテログラードの婦人たちがロシア革命の引き金となった。実際のロシア革命はもっと複雑に展開するのだけれどここでは割愛。私に何かを気づかせたのはこのデモ。

 デモを起こした婦人たちは何を考えたのか。私には分からないけれど、これ以上戦争が長引いて食べ物が供給されないのなら死んだ方がマシだと思っていたとしたら?戦時中の国に逆らうと殺されそうな気がするけど、それでもデモを起こせたのは生きることに投げやりだったからじゃないか?

 このロシア革命と婦人たちに関しては全部私の勝手な解釈なのだけど、こうして現在の答えに私は至った。

 革命によって華々しく破滅する。それが私の選んだ破滅であった。